1〈中〉というテーマ
ぶしつけなお訊ねですが、〈中〉について考えられたことはあるでしょうか。「まんなか」とか「中途半端」という場合の〈中〉のことです。「まんなか」はそうではないけれども、「中途半端」というのは、どっちつかずでハッキリしないあり方、という悪い意味で使われることが多い。それとは違って、まあまあ、それぐらいでええやんか、という肯定的なニュアンスで、〈中〉が使われることもある。小林一茶の句「めでたさも 中ぐらいなり おらが春」というのは、こちらの方かと思われます。いま私が書いているのは、〈中〉をテーマにした『中のロゴス――東アジアの目から』という本、これが最後になろうかという著書です。その中で〈中〉を論じることにしたのは、〈中〉を本気で考えることをしない世の中に、警鐘を鳴らす、と言うと大げさですが、一発かましてやろう、という気持ちからです。
〈中〉を考えない社会が、私たちの生きる現実です。学校に入れば、必ず試験が行われ、成績が点数で示される。60点ならそれでOK、という話ではなく、100点満点をめざさないといけないし、大勢いるクラスの中でトップの成績をとることが勉強の目標になる。会社に入って、営業の仕事を任されるとなると、他人より少しでも多くの商品を売りさばいて、成果を上げなければなりません。いちいち例を挙げるまでもなく、この社会は、より高い目標をめざし、より多くの成果をうみだすことが義務づけられる社会です。それに対して、〈中〉が重要視される社会があるとすれば、どんな社会でしょうか。
「中途半端」は、それ以上の達成が目標とされる場合について使われる言葉。それとは違って、より多くも少なくもない、程々のあり方がよい、という考え方も存在します。中ぐらいがよい、という意味で用いられるのが「中庸」です。人間のもつべき徳として中庸を掲げるのは、孔子に始まる中国の儒教ですが、ご存じの方も多いでしょう。〈中〉を重んじる思想が目立つのは、釈迦の説く仏教を生んだインド、儒教が力をもつ中国、そしてインドと中国から大きな影響を受けてきた日本、つまり東アジアの国々です。日本を挙げることに、(?)を感じる方がいるかもしれません。日本は、仏教や儒教といった偉大な教えを自前で生み出すことがなく、いわばそのオコボレにあずかって生きてきた周辺国家。ですが、日本には〈中〉の思想を理論よりも実践で活かす伝統、〈道の文化〉が根づいています。柔道や茶道、そのほか日本で生まれて独自の発達を遂げてきた「~道」の数々。そういう文化は、他の国々にはない、日本だけの伝統ではないかと考えられます。世界に誇るだけの大思想を生んだことのない日本。しかし、そのことに劣等感をもつ必要はなく、文化大国と隣り合わせの位置から、〈中〉のロゴスを活かす道筋が日本に生まれたことを、もっと評価してもよい、と私は考えます。
「東アジアの目から」という副題を掲げた理由は、以上のとおりですが、もう一点、言いたいことがあります。現在の世界を蔽うのは、テッペンをめざさなくてはならないという、一種の強迫観念です――本の中では、それを「頂極主義」と名づけました。古代ギリシア以来の西洋哲学の流れは、こちらの方向に世界を動かす働きをしています。その強力無比な勢いに対抗するために、東アジアの三極――に限りませんが――がスクラムを組むべきではないか、という思惑があって、こちらに「中道主義」というレッテルを貼り付けました。そんな思惑など、どこ吹く風と言わんばかりに、いがみ合うことの多いアジア諸国ですが。
今月の本ページは、今年、世に出ることを期待する拙著の前宣伝になりました。どうかあしからず。
2 木岡哲学塾の活動状況
Ⅰ 木岡哲学対話の会
2026年度の第1回は、以下のとおり行われました。
◎2026年度第1回木岡哲学対話の会
《全体討議》
○日時:3月1日(日)13:00-16:00
○会場:大阪駅前第三ビル17F第7会議室
○内容:
1)《対話の現在を問う》
主宰者自身の現況とあわせて、哲学対話の原点に立ち返る狙いを語りました。
2)《いま考えたいこと》
参加者が持ち寄ったテーマの中から、票決で選ばれたテーマ2点――「ピアカウンセリングと対話」「資本主義の矛盾と芸術」――について対話を行いました。
3)その他
4、5月の発表予定を確認しました。
Ⅱ 哲学ゼミ
2月第三週に、次のとおり行いました。
〇日時:2026年2月15日(日)13:00-16:00
○内容:
1)プラトン『国家』第十巻の読解
全10巻を読み上げました。次回は「総括」として、全篇をつうじて関心のある論点を持ち寄って討議する予定です。
2)発表と討論
R.ベネディクト『菊と刀』をめぐっての発表、それを承けての討議が行われました。
3)その他
『国家』の次に読むテクストを検討し、次回に決定することになりました。
Ⅲ 個人指導
参加者個々の事情に合わせて、読書指導・論文指導・発表指導などを続けています。常時7,8名を相手に、2~4週に1回程度のレッスンを継続しています。「木岡哲学対話の会」や他の催しでの発表に合わせた指導も行っています。遠隔地に移住したメンバーとは、Zoomを利用したリモート形式の指導を行っています。