毎月21日更新 新着情報

2024年3月21日新着情報

1 古くて新しい世界

 357日、以前の本ページ(12.21更新)でご紹介した松井完太郎学長からお招きを受けて、千葉県勝浦市の国際武道大学を訪問しました。長らく西洋発の哲学(フィロソフィ)と付き合ってきた私にとって、日本古来の「武道」にかかわる機会は全然なく、今回が文字どおりの初体験。その意味はひとこと、「古くて新しい世界」に出会った、ということに尽きます。

 最初の東京五輪(1964年)で柔道が正式種目となり、同年、2年前に財団法人として発足した日本武道館が完成しました。伝統文化の再興へと気運が高まっていく中で、「国際的に活躍できる日本武道の内外の指導者を育成する」という理念に特化した国際武道大学――「武道」を校名に掲げる唯一の大学――が設置されたのは、1984年。開学から数えて40年、武道学の理論的充実を図るべく、レンマの論理を導入したいという学長の意向により、『〈あいだ〉を開く――レンマの地平』(世界思想社、2014年)を著した私に、研究プロジェクトのゲストとして、白羽の矢が立ったわけです。

 コロナ感染禍の過去4年間、外部からほとんどお呼びのかからなかった私にとっては、久々の出張です。東京駅まで出迎えてくださった松井学長に案内され、房総半島の太平洋側、外房の真ん中に位置する大学まで、東京湾アクアライン(海底のハイウェイ)を抜け、シカやイノシシに遭遇するという山中の道を経ての2時間の道中は、驚きの連続でした――現地での体験に比べれば、ほんの序の口にすぎなかったとしても。当初伺っていた催しの趣旨は、内輪の勉強会。それが直前に、日本武道学会会長の大保木輝雄先生が参加され、さらに動画も収録されるという段取りが知らされて、いささか慌てました。これは相応の準備をしないわけにはいかないと判断し、急いで発表原稿を書き上げ、あわせてプレゼン用のスライドも作成しました。

国際武道大資料(24.3.6)

 36日当日のセッションは、二部形式。午前中に「 レンマとは何か」、午後に「 レンマと武道」と題する私の発表(各1時間)につづいて、参加者とのフリー・ディスカッションに1時間ずつを充てるというもの。進行役の松井学長は、討論の司会はもとより、ゲストの紹介、「レンマ」の基本的な解説など、万般に行き届いた準備をして臨まれました。ご自身で作成された盛りだくさんの資料(山内得立や私の写真入り紹介文、ロゴスとレンマとの違い、「因果」と「縁起」の関係など、内容に関する説明図)が用意され、哲学やレンマについて予備知識がない方々の理解が促進されたことを、特記しなければなりません。

 さて、「古くて新しい」のは、武道のどういう点でしょうか。我田引水を承知で申すなら、武道における心身一如のはたらきは、合理的なロゴスではなく、「非合理」なレンマの論理によって説明されなければならない。当日のプレゼンにおいて、私は武道の立ち合いにおける「間合い」を例に挙げ、攻防いずれともつかない仕方で、双方の呼吸が一致する事実にレンマの特性が見てとれる、という見解を語りました。松井学長と私には、最初からレンマについて基本認識の一致がありましたが、大保木先生はじめ参加者各位――大半は、同学の若手スタッフ――にも、一定の共通認識が生じたかに見うけられます。このことは、正式の会合ばかりではなく、前後に開かれた非公式のつどい――ありていに申せば、呑み会――でも確かめられました。そのあたりは、いずれ公開される動画――本サイトでも共有の予定――によって、みなさまに確認していただけることでしょう。

 とりわけ「新しい」と考えられる理由を、一点だけ述べて終わりにします。武道が「新しい」と言えるのは、西洋近代文明が閉ざした〈あいだ〉を開く実践のかたちが、再発見に向けて用意されているからです。一対一で対峙する武道の立ち合いは、たがいの呼吸(間合い)を測ることによって成立する。そこに開かれるレンマ的な〈あいだ〉が、それを閉ざし続けてきた現代の世界にとって、いかに斬新な意義をもつか――この点については、いずれ私自身の書くものでも証明するつもりです。

 以上、とりあえずのご報告まで。

2 木岡哲学塾の活動状況

 木岡哲学対話の会

 33日を皮切りに、2024年度が始まりました。開催の要領は、2023年度と同じです(2月・8月を除く毎月第一日曜、13時-16時、全10回、参加費1000円)。

開催日:3/3, 4/7, 5/5, 6/2, 7/7, 9/1, 10/6, 11/3, 12/1,2025年)1/5

会場:大阪駅前第三ビル17F7会議室(開催日により変更あり)

運営方針:「生命」と「正義」を中心テーマとして、「1 哲学講話」と「2 哲学対話」とが内容的に連携するよう努めます。

◎第1回(3/3)の報告

 《正義とは何か》

 1)哲学講話:《正義の成立》

   ソクラテス、プラトン、アリストテレスによる「徳」の追究が、正義としての「平等」(配分的正義)へと具体化されていく過程を明らかにしました。

 →正義の成立

 2)哲学対話:《配分的正義と教育無償化の問題》

   目玉政策として論議されている教育の「無償化」を、「配分的正義」の事例として取り上げ、政策の内容と問題点が検討されました。

◎第2回の予定

 《法と正義》

1)哲学講話: 《法とは何か

  正義を体現するロゴス――法。法はなぜ、いかにして生まれ、何のために存在するのかを、具体的事例に即して考えます。

2)哲学対話:《わが裁判闘争》

  遺産相続をめぐるトラブルに深く関与した発表者が、裁判の一部始終、および裁判をつうじて得られた教訓を語ります。

 哲学ゼミ

2024年度の第1回を、次のとおり行いました。

〇日時:3月17日(日)13:001600

〇会場:木岡自宅

〇プログラム

1)テクスト読解:

木岡伸夫『瞬間と刹那――二つのミュトロギー』(春秋社、2022年)「第二章 瞬間のミュトロギー」。

2)発表と討論:

《プラトン・アリストテレスにおける〈中〉の意義》(最新の研究成果を木岡が発表し、全員で討議する)

3)その他

 国際武道大への出張から得られた気づきについて。

 個人指導

〇会場:木岡自宅

〇開催日:月・水・金・日(上記イベント開催日を除く)の、午前(10時―12時)・午後(13時-17時)。事前予約制。

〇内容:読書指導・語学指導・論文指導。その他、社会人の教養支援、学生の研究指導など、個々の希望に応じます。原則は、24週に1回、各2時間の指導。

以上の催しのうち、については若干名の参加を受け付けます。希望される方は、次のアドレスまでお申し込みください。→n.kioka@s3.dion.ne.jp

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