毎月21日更新 新着情報

2025年4月21日新着情報

1 遠来の友

 朋(とも)あり遠方より来たる、また楽しからずや。言わずと知れた『論語』冒頭の一文です。一昨年十月更新の「新着情報」でご紹介した、旧友三人との語らい。そのうちの二人が、三月三日に拙宅を再訪してくれました。前回は、そのさい記事にしたとおり、金城 馨さんの主宰されている関西沖縄文庫に三人を案内して、オキナワ・タウンである大正のことなど、いろいろ語り合いました。今回、その折には話題にできなかった、それぞれの暮らし向き、来し方や近況をめぐって、大いに話が弾みました。

二人のうちY君は、京都教育大学を卒業後、小学校教員として沖縄に赴任し、現地で校長のほか教育にかかわる役職を務め上げて退職、現在は島尻郡南風原町に住まいつつ、郷里である奈良県吉野町――町とはいっても、近鉄大和上市駅から数キロ東に入った山間部――との間を行き来しながら、どちらでも畑を耕して野菜づくりを手がけているとのこと。対する君は、住宅関係の会社勤めを辞めて九州の公立大学に転職、環境心理学の専門家として20年を過ごし、退職後は大津市石山の自宅で「晴耕雨読」とか――同窓会の折、この発言を「ホンマかいな」という不審顔で聞いた当方の表情を、彼は覚えていました。収穫された菊芋やラッキョウの手料理が持参されたことは、それが言葉の綾ではない証拠です。

二人とも片道2時間以上の遠路をおいでいただくのだからと、こちらはおでんを用意して迎え、Y君提供の泡盛の古酒をチビチビやりながら、それぞれの思いを語り合いました。Y君は、その感化を受けて沖縄への就職を選んだ旧師O先生から、赴任後数年経ったころ、そろそろこちらに帰ってきてはどうか、という勧奨を受けました――私にも、そういう発言をされたことの記憶が残っています。われわれが高校生であった60年代当時、「本土並み」の復帰が焦点になっていた沖縄に身を移すことの難しさを案じ、それをY君に勧めたことの責任を感じられたのかもしれません。しかしY君は、他人の思惑など気にかけず、本気で沖縄の地に根を下ろした。とはいえ、故郷である大和から離れ去ることもできない。という次第で、沖縄と吉野、異なる二つの風土を往来しながら、双方の〈あいだ〉を開く、という現在のスタイルに落ち着いたわけです。高齢者の独り暮らしが増えつつある吉野の状況から、目をそらすことだけはすまい、という彼の覚悟に感じ入りました。

君の方は、勤務先の大学内に創設された美術館の運営に携わり、ユニークな方針をうちだした経緯を語ってくれました。それは、展示作品と鑑賞者とが一対一で向かい合う通常の美術鑑賞のあり方に代えて、作品と観客以外の〈第三者〉――それを何と呼ぶのかは、訊きそびれました――が、現場での対話に参加するという新機軸を導入したことです。ふつうの美術鑑賞は、作品と鑑賞者との関係が内向きに閉じられる「二人対話」。それが、いわば〈私〉(鑑賞者)と〈汝〉(作品)という二者の〈あいだ〉に、媒介的な役割をする〈彼〉が介入することによって、たがいのもとにさまざまな気づきが生まれていく、という「三人対話」――M君は、私が案出したこの言い方を先刻ご承知でした――に切り替えられたわけです。眼を閉じて触れることを期待する作品を発表してきた彫刻家との出会いが、M君に対話型ミュージアムの実現を後押しした、という興味の尽きない思い出話でした。そういう類のチャレンジは、5年前の退職と同時に終わった、と洩らす彼に対して、現在の居住地大津にある滋賀県立美術館でも、多少それに似た取り組みができるのではないか、とそそのかした当方ですが、さてどうなりますか。

いくら歳をとっても、答えるべき課題に向き合いつづけるかぎり、人は「現役」です。二人の現役から貴重な力をもらった、語らいのひとときでした。

 

2 木岡哲学塾の活動状況

 「木岡哲学対話の会」「哲学ゼミ」「個人指導」について、それぞれの近況をお伝えします。

 木岡哲学対話の会

 先月、年間のテーマを「環境問題」に定めたことをお知らせしました。対話のトピックは、これまでと同様、参加者によってさまざまですが、要は、風土学の扱う「最も広い意味での環境問題」――その意味については、先月の本ページに添付した哲学講話のPDF資料《「環境問題」とは何か》をご覧下さい――という視点から考えようということです。

◎第2回《〈中〉の迷宮》

日時:4月6日(日)13001600

会場:大阪駅前第三ビル17F7会議室

内容:

  1. 哲学講話:《「中」とは何か》

 〈中〉には「二つのものの中間」という通常の意味以外に、「的中」「中正」が表す「正しいあり方」という、もう一つの意味があります。この事実をもとに、「中流」などの階層意識を問題にする、という二部形式をとりました。

 →〈中〉とは何か pdf

  1. 哲学対話:《資本主義社会の理想と平均》

 資本主義の〈構造〉は、資本の拡大による格差拡大のシステム。格差是正による「平均」化の企てが、虚想でしかないゆえんを明らかにしました。

3)その他

参加者から、希望する発表のテーマ・内容を聴き取りました。現時点で、6月以降は未定となっています。

 哲学ゼミ

 日時:323日(日)13:001600

会場:木岡自宅

プログラム

1)『国家』第二巻

 「正義」をめぐる問題の再提起と、それに続く国家形成の思考実験を展開する第二巻について、参加者による報告が行われ、詳細な内容検討が行われました。

  1. 新著の構想

 新著『〈中〉のロゴス』の構想――執筆の狙い、具体的内容など――が主宰者から明かされ、参加者との質疑応答や意見交換が行われました。

 次回は、413日(日)に行う予定です。

 個人指導

 各自の希望するテーマに沿って、レクチュア・読書指導・語学指導・論文指導などを自宅で行っています。2~4週に1回のペース。自己研鑽のためのレッスンが中心ですが、「木岡哲学対話の会」で発表するための助言も行っています。読書指導では、プラトン『国家』、ベルクソン『道徳と宗教の二源泉』、ホワイトヘッド『過程と実在』といった大作を中心に、参加者ごとに多彩なテクストを読み込んでいます。テクストの読解をもとに、〈自己のテーマを自分で考え、自分の言葉で表現する〉ための訓練として、論文を作成してもらうこともあります。

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