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2025年5月21日新着情報

1 〈語る〉のは何のためか

 「木岡哲学対話の会」(以下、「対話の会」)を運営していて気がつくのは、参加者一人一人が〈語る〉ことへの強いこだわりをもっているということです。「語ることへのこだわり」というのは、必ずしも「思う存分に語りたい」ということではありません。自分の話をしたい人は、世間に大勢いて、こちらから遮らないかぎり、話し続けることをやめないといった人も、まれではない――いわゆる「おしゃべり」です。しかし、ここで「こだわり」と書いたのは、表現意欲が旺盛だということではなく、話題や内容を慎重に選びながら、それを言葉にして語ろうという姿勢のこと。言ってみれば、車の運転――私はできませんが――にさいして、ブレーキとアクセルを同時に利かそうとするような流儀です。

 「対話の会」の参加者に、おしゃべりの人はいません。世間一般の目から見れば、口数の少ないおとなしい人、という印象を与える人ばかりです。そういう人たちでありながら、機を見て言葉を発するや、内に潜む思いがあふれてきて止まらない場合があるのは、何をどう語ったらよいかというテーマを、当人が日ごろから温めていることの表れです。ときには、主宰者である私の方から、〈語り〉に向けた誘い水を発することもあります――この人には、表現したいこだわりのテーマがある、と見えたときなど。こちらの見込みが外れていなければ、相手は即オーケーというのが、大体のならいです。

 こうして、「哲学対話」の発表者(報告者)が決まります。30分の枠組み――私が担当する「哲学講話」も同じです――で語られるテーマは、基本的に〈自己〉、自分の問題です。判り切った話と思われるかもしれませんが、学会発表などを数多く聴いてきた者にとって、それは当たり前ではない――〈自己〉がどこにも見当たらないような他人事の話を聴かされることもしばしば、というより、そういう発表の方が多いというのが実状です。「対話の会」では、そういう自分不在の発表は、ほとんどありません。語られるのは、自分にとっての問題、わがことばかりです。

 仏教学者の三枝充悳(さいぐさ みつよし)は、通常「因果」とされるものに対して、仏教的な「縁起」では、〈縁〉でつながる関係支の一方に、必ず「自分」が位置する、ということを説いています。この考えに従うなら、「対話の会」で取り上げられるテーマは、すべてその人に〈縁〉のある問題であることになります。各人の口から、自分自身にかかわる〈縁〉の物語が語り出されるわけです。「対話の会」に参加するようになって二年余り、一度も休まず出席を続けてきたSさんが、このたび発表するテーマは、《信と知》。昔から中世哲学ないし神学の世界で論じられてきた重要問題ですが、Sさんは、これを自身が歩んできた人生行路において深めてきた信心と、学校や仕事の現場で追求してきた知識とのつながり、という問題に置き換えて、過去を語る手はずになっています。私的な心の領域に属する〈信仰〉という問題を、信者仲間ではない他の参加者に向かって、どのように語ればよいのか―― それに対する私のアドバイスは、自己と他者との〈あいだ〉に立つように、ということでした。それは、信仰をもつ自分という主体から少し離れた第三者の位置から、あたかも他人事を語るような意識で、自分のことを語る、という作法を意味します。教団において、責任のある指導的役割を務めるSさんには、これまでそういう語り方をした経験はないとのこと。けれども、他者との〈出会い〉、そこから始まる〈対話〉に向けて、自身の立ち位置を少し変えてみる必要がある。そのことは、対話に苦労した人であれば、思い当たるはずの〈常識〉だと思います。そういう常識がなかなか通らない世の中に、私たちが生きていること、これもまた否定しがたい事実ですが。

2 木岡哲学塾の活動状況

 「木岡哲学対話の会」「哲学ゼミ」「個人指導」について、それぞれの近況をお伝えします。

 木岡哲学対話の会

 年間のテーマは、「環境問題」。「哲学対話」の発表内容は、参加者によってさまざまですが、参加者が自身にかかわるテーマを、「最も広い意味での環境問題」という文脈において考える、ということが狙いです。私の担当する「哲学講話」のテーマ・内容は、後に続く「哲学対話」に連動するように配慮して組み立てられています。

◎第3

日時:5月4日(日)13001600

会場:大阪駅前第三ビル17F8会議室

内容:

《縁を結ぶ世界へ》

  1. 哲学講話:《風土学的実践と縁結び》

 ミクロ・メゾ・マクロという環境の三つのスケールに応じた倫理的実践の中で、〈メゾ→マクロ〉への移行が課題になると述べてきました。この課題に対して、〈縁の倫理〉の観点から、間風土的主体同士が〈縁を結ぶ〉という答えを示しました。

  →風土学的実践

  1. 哲学対話:《ミクロコスモスからの共創型福祉》

 高次脳機能障害を抱える発表者が、自身の最近の活動を、ミクロ(個)―メゾ(会社、地域)-マクロ(社会)という三つのスケールにまたがる取り組みとして紹介しました。哲学講話と連動する対話となりました。

3)その他

参加者・主宰者から、現在構想中の活動予定が披露されました。

 哲学ゼミ

 日時:4月13日(日)13:001600

会場:木岡自宅

プログラム

1)『国家』第三巻

 国の守護者への教育内容に関する第三巻の議論について、参加者による報告が行われ、詳細な内容検討が行われました。

  1. 共同討議

 参加者3名が、それぞれ関心をもつ現在のテーマを提示し、その中から異国での日本語教育をどのように行うかというテーマを選んで、意見を交換しました。

 次回は、518日(日)に行われる予定です。

 個人指導

 レクチュア・読書指導・語学指導・論文指導などを、自宅で行っています。自己研鑽のためのレッスンが中心ですが、「木岡哲学対話の会」で発表するための助言も行っています。それぞれに関心のあるテーマに即して、テクストを読解し、論文を作成してもらうなど、個人対象のゼミとなっています。

HKさんの場合:

 30代前半の会社員。本サイト「出会いの広場」開設当初からの投稿歴あり。〈意味〉の問題に関心が深く、大学院に入って専門的に研鑽するという選択肢も検討したが、家庭人としての立場を考慮して断念、仕事のかたわら月12時間のレッスンを続けています。テクストとして、昨年、山内得立『意味の形而上学』を読み上げたのち、今年はホワイトヘッド『過程と実在』に全力で取り組んでいます。

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