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2025年11月21日新着情報

1 対話の原点と今

 哲学とは対話である。この信念をもって大学を去り、在職中から通算して6年半余り「哲学対話の会」を主宰してきました。活動拠点を変えたことの根本は、対話の場が「権力空間」ではなく、「自由空間」でなければならないということにあります――二つの空間については、2月の本ページをご覧ください。自由空間とは、そこにいる人々が気兼ねなく言いたいことを言い合うことのできる場であって、自由な発言が封殺される「権力空間」の対極に位置します。この考えにたどり着く大きなきっかけになったのが、「哲学対話」の存在。哲学対話が世の中に広まるのに大きく貢献した一人である梶谷真司さん(東京大学教授)から、新しい本が送られてきました。『ジブンの世界はジンブンでできている』ジブンジンブン、2025年。

梶谷さんはじめ三人の人文学研究者――梶谷さんは哲学、あとの二人は考古学とフィクション論が専門――の共著ですが、編集部の発案と思われる実にユニークな内容です。三部構成の第1部・第2部は、哲学者と考古学者に対する個別インタヴュー。書物や論文では語られることのない専門家のホンネが引き出されています。それを読むと、ホーッ、梶谷真司はハイデガーを研究していたのに、ハイデガーが嫌いだったのか!――といった具合に、目からウロコが落ちる事実がいろいろ明かされます。つづく第3部「哲学者と考古学者がフィクションについて考えてみた」は、大学院生である「悩めるフィクション研究者」の研究領域に先輩格の二人が入り込んで、闊達なトークを繰り広げるという「三人対話」のシリーズ。通読以前のザッとした印象ですが、これまで出されたことのないタイプの本であるということだけは、よく分かります。

哲学対話のマニフェストというべき『考えるとはどういうことか』(幻冬舎、2018年)によって、梶谷さんの思想と実践を知ったことが、大学教師としての生き方を変えるきっかけになりました。もっと言うなら、大学という権力空間を去り、世の中で人と人の〈あいだ〉を開く仕事に乗り出す方向に向けて、私の背中を押してくれたのが、『考える』というこの本でした。梶谷さんがハワイで知ったというP4CPhilosophy for Children、子どものための哲学)という考え、その柱となる哲学対話の方法が書かれています。この本から、開かれた対話の場がどうすれば生まれるか、ということを学びました。その気づきが、退職前からつづく6年余の活動の原動力になっています。以来、自分なりのやり方を模索するうちに、どうやら納得できる哲学対話の型に到達しました。

たとえば、P4Cでは各自が考えたいテーマを持ち寄り、その中から多数決で当日のテーマを決めます。きわめて合理的で民主的なやり方ですが、反面、同じテーマについて継続的・発展的に対話を続けることができにくいという弱点があります。それともう一点、哲学対話の主宰者――ふつうは哲学者――が、自身の意見を表明して議論に介入することをしないという原則は、対話の場を権力空間にすることなく、開いておくための措置と考えられる一方、哲学者に期待される役割――おのれの思想を語ること――の放棄を意味します。いま挙げた対話の継続と発展、哲学者としての責任、という二点から、私は自身の主宰する哲学対話の会を、⒜「哲学講話」と⒝「哲学対話」の二段構えとしました――8月の本ページ「哲学講話と哲学対話」をご参照ください。当日のテーマに沿って、私が自分の思想を語る――⒜、次に参加者の一人が意見発表する――⒝、この二段階に続いて、⒞集まった人たちが意見を交わす、という形で対話がステップアップするシステムです。このやり方は、〈私〉と〈汝〉との「二人対話」に〈彼〉が加わる「三人対話」のスタイルを表します。これが、現時点で自分の考える哲学対話の定番ですが、〈私〉が対話の主導権を握ることによって、対話の場が権力空間に転化しやすい、というマイナス要素が伴うことも事実。P4Cと「三人対話」、それぞれの一長一短を弁えて、使い分けるというのも一法か、という考えに今はなっています。

2 木岡哲学塾の活動報告

Ⅰ 木岡哲学対話の会

 112日(日)に、本年度第8回を開催しました。

2025年度第8回木岡哲学対話の会

《コスモロジー再考》

日時:112日(日)13001600

会場:大阪駅前第三ビル17F7会議室

内容:

 1)哲学講話:《三つのコスモス》

  ミクロ・メゾ・マクロにまたがるコスモス(宇宙、秩序)の構造を概説し、近代以降に失われたコスモロジーの再興という課題を提示しました。

三つのコスモス 資料pdf

 2)哲学対話:《詩はなぜ、何のために――メゾコスモスを超えて》

  詩人としての歩みを4つの時期に分けて振り返り、詩を書き続けることの意義をコスモロジーの観点から明らかにしました。

 3)その他

  来年7月以降の会場として、主宰者の居住地に近い大正会館(大正区コミュニティセンター)が有力な候補であることを確認しました。

 哲学ゼミ

 今月は、次のとおり行われる予定です。

〇日時:1123日(日)13001600

内容:

 1)プラトン『国家』第八巻(後半部「1119」)の読解

  民主制および僭主独裁制をめぐる議論を検討します。

 2)発表と討論

  ケアの現場に身を置くメンバーによる発表を承けて、討議が行われます。

 3)その他

 個人指導

従来どおり、参加者各自の事情に合わせて、読書指導・論文指導・発表指導などを続けています。常時56名を相手に、24週に1回程度のレッスンを設けていますが、「木岡哲学対話の会」での発表に合わせて、発表原稿の作成などに必要な助言を行うこともあります。

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