1 TFさんとの惜別
木岡哲学塾の中心である「木岡哲学対話の会」は、退職1年前の2019年から始めて、もう7年半になります。「対話の会」の前身は、関大大学院(M)の自由科目「都市の風土学」(人間環境学研究)。ふつうなら非公開であるべき大学院の専門科目を、無断で公開して、社会人が自由に参加できるようにしたのですが、それを大目に見てくれたのは、さすが「寛大」というところです。TFさんは、「都市の風土学」時代から現在まで、20年つづいたお付き合いの歴史を振り返りながら、「対話の会」9月例会でお別れの挨拶をしました。今回は、「対話の会」生みの親でもあるTFさんのことを少しだけ書かせていただきます。
偶然そのものの出会いでした。御影にある高齢者向け集合住宅の宣伝が、老後の生きがいとして大学の講義を聴講することができる、と謳っていたことから、そこで紹介された関大の授業に出席するうちに、私の担当する「公開」講義に出くわしたとのこと。山形の高校を出てから、すぐ上京した彼女には、大学の講義を聴く機会がなかったことはもちろん、市民が参加できる開かれた授業を知る機会はありませんでした。思いがけない幸運を喜んだ彼女が、ひときわ熱心に参加したことは、言うまでもありません。
「都市の風土学」では、1時間余りの講義につづいて、20分ほど講師と出席者との意見交換(質疑)の時間を設けました。正規受講の大学院生数名に交じって、というより、ずっと人数の多い社会人のあいだに院生が席を占めるような格好で、質疑応答が行われます。学生と社会人、どちらの発言が多かったか、いまとなっては記憶が定かではありません。学生の方は、それなりに専門に即した質問・意見を出すものの、そういう機会を経ることなく参加した社会人、学歴が高校までの人たちが、ツボを突いた発言をすることは、そうめったにありません。TFさんは、よく発言した一人だったと思います。しかし、その多くは、問題の急所に当たらないハズシでした。というよりも、しばしば学問的なテーマから逸れて、雑談調のおしゃべりに流れてしまうことには閉口しました。「井戸端会議はおやめなさい」というキツーイ叱責を何度したことか。ご本人は、よく覚えているはずです。
たまにヒットすることもあります。私のゼミ生――中年の社会人男性――が、時間論の「瞬間」にふれて、「時間が止まる」という趣旨の意見発表をしたとき、すかさず「時間が止まったら、死んでしまうじゃないの」という鋭いツッコミを入れたのは、彼女です。その折、相手を素人と見てゴマカシを図った発表者に向かって、瞬間という問題を学生時代から考え続けてきた私は、「知らないことをごまかそうとするな」と言って罵倒しました。十年も前の出来事です。
退職する前年の2018年度までで「都市の風土学」を打ち切った理由は、社会人に少数交じっていた受講生が、ゼロになると見込まれたことによるものです。不開講の扱いとなれば、外部からゲストを招いての講義計画を立てることも、断念しなくてはなりません。そうした矢先、TFさんとSKさん(男性)のコンビが相談して、民間施設を借りて「木岡哲学対話の会」――この名称も、彼女の発案です――を開催することが決まりました。以来7年半、長年の相棒であったSKさんが、健康上の理由で昨年退会してからは、TFさんが最古参のメンバーとして、会の運営維持に尽力してきました。それより遡る2023年、うつの症状が出て、オフィスで「対話の会」を続けていく気力がなくなった私に、SKさんと一緒に奔走して、新しい民間の貸会議室を確保してくれたのも、彼女でした。
思い出話にはキリがありません。80歳という区切りに達して、退くことを決意した彼女のために、どんな言葉を送ることがふさわしいでしょうか。まだその答えを出せずにいます。
2 「木岡哲学対話の会」参加者募集
◎募集人数:若干名
「木岡哲学対話の会」は、本年7月より会場を変更して、従来どおりの活動を続けています。12名定員の旧会場から20名収容の現会場(大正区コミュニティセンター)に移ったことにより、新たに参加者を受け容れることのできる余裕が生まれました。参加を希望される方は、下記のアドレス宛に、理由を添えてお申し込みください。申し込み先着順につき、ご希望に添えない場合があることを、あらかじめご了承ください。
→申し込み先:n.kioka@s3.dion.ne.jp(木岡伸夫)
3 木岡哲学塾の活動状況
「木岡哲学対話の会」「哲学ゼミ」「個人指導」について、以下のとおり活動を再開しました。
Ⅰ 木岡哲学対話の会
第6回「木岡哲学対話の会」
《ケアと対話》
○日時:9月6日(日)13:00―16:00
○会場:大正区コミュニティセンター2F第7会議室
○内容;
1)哲学講話:《対話のことば、ケアのことば》
臨床の現場で行われるケアを対話の一種ととらえて、〈ケアとしての対話〉が成立するための条件を考えました。
2)哲学対話:《ピアカウンセリングについて》
発表者のカウンセラーとしての実体験を踏まえて、平等なカウンセリングのあり方が論じられました。
3)その他:長年本会の運営に尽力されたTFさんから、退会のご挨拶がありました。
Ⅱ 哲学ゼミ
秋期第一回のプログラムは、次のとおりです。
○日時:9月20日(日)13:00―16:00
○内容:
1)ルソー『社会契約論』第三編「第七章 混合政府について」まで(p.83~p.110)。
2)発表と討議
3)その他
Ⅲ 個人指導
塾生個々の要望に応えて、読書指導・論文作成・発表準備などの助言を行っています。読解の目的で取り上げてきたテクストの一部を、以下に挙げます。
○今西錦司『生物の世界』
○木岡伸夫『風景の論理――沈黙から語りへ』
○西田幾多郎「信濃哲学会のための講演」
○『荘子』
○プラトン『パイドロス』『ソクラテスの弁明』
○熊十力『新唯識論』
○H.アレント『責任と判断』