1「中道」というレッテル
最新著『〈中〉のロゴス――東アジアの目から』(萌書房)が、10月10日に刊行されました。その宣伝をさせていただきます。書名については、迷った末に、このタイトルに落ち着きました。というのは、当初、『中道のロゴス』を表題にしたい気持ちがあったからです。なぜ、それを止めたかって?「中道」を旗印に掲げた政治勢力のミジメな末路をご存じの方々には、おそらく言わずもがな。それと拙著を結びつけられたのでは、あらぬ誤解を招きかねないとの思いから、〈道〉を外した〈中〉で勝負することにしました。
拙著を手にとられる方に、まず申し上げたいのは、「中道」を標榜する政治勢力にかかわりをもとうとする意図は、本書にはまったくないということです。とはいえ、本書がテーマとする〈中〉あるいは〈中道〉の意味が正しく世に理解された暁には、「中道」なる政治的主張にそれなりの意味が生じてくるということが、理解されるかもしれません。というのは、そのネーミングを耳にする人々に、中道の理念を思い浮かべたうえで、それを名乗る政治勢力が存在してもおかしくないと考える可能性があるということです。
中道政党を名乗ることが、世間に対して何の訴求力もないという事実は、選挙の結果が明白に物語るとおりです。「物価が下がってほしい」「手取りが増えてほしい」というのは、それなりに切実な庶民の願い。それに対して、「中道」という理念を振りかざすだけでは、何の意味もありません。物価対策・経済政策が、それ自体で政策としての有効性を発揮するということが、第一の条件です。そうして、そのことと相まって、大局的なヴィジョンとしての「中道主義」の意義が受け容れられたとき、はじめて中道勢力が社会的認知を受けると私は考えます。いま挙げたうちの後者の面、中道主義の根本的理念を世に問うということが、本書を刊行する最大の狙いです。表紙を飾るオビのコピーは、私が作成しました。
テッペンに立つことを目指す「頂極主義」のイデオロギーは、プラトンに発して今日まで続く〈欲望の論理〉を生み出した。対照的に、〈中〉をよしとする「中道主義」は、〈中の論理〉(インド)、〈中の形而上学〉(中国)、〈道の文化〉(日本)、という東アジアの三極に息づいている。本書は、世界を蔽いつくす頂極主義に訣別して、人間が人間として生きられる世界を取り戻すための道筋を照らし出す。
本書の狙いが、ご理解いただけるでしょうか。欲望が無限増殖する資本主義のシステム。その発生源は、近代の夜明けを告げるデカルトの二元論であるということが、これまでよく言われてきました。以前に著した『〈あいだ〉を開く――レンマの地平』(世界思想社、2014年)の中では、私自身が〈欲望の論理〉を近代の二元論に結びつけていました。しかし、今回の著書では、デカルトよりもずっと古く、古代ギリシアのプラトン、その「イデア論」に、〈欲望の論理〉の萌芽である「頂極主義」が認められる、という認識を新たに提示しました。テッペンを志向する意識は、哲学の歴史を代表するプラトンによって、早々にお墨付きが与えられたことになります。
そういう頂極主義への囚われから、自由になりたいという願いは、多くの心ある人々が共通して抱いています。そういうふつうの人間の思いに応えるべく、私たちの心の底に生きる〈中のロゴス〉を取り出して具体化し、人々を無意識のうちに束縛しつづける〈欲望〉に対抗する原理に仕立てなければならない。これが、後期高齢者の仲間入りした私にとって、大げさながら「遺言」とも言える、本書のメッセージです。ぜひお買い求めくださるよう、お願いします。もし書店等で入手できないということがあれば、直接私宛にリクエストをくださるなら、手もとの取り置き分からご用立てする用意があります。
2 著書の刊行
1でご紹介したとおり、このたび4年ぶりに著書が刊行されました。
○木岡伸夫『〈中〉のロゴス』萌書房、2026年10月10日刊行、全264ページ、定価3080円(本体2800円+税10%)。
書店での入手が困難な場合は、著者までご連絡下さい(n.kioka@s3.dion.ne.jp)。

3.論文の刊行
木岡伸夫「対話の哲学に向けて」『関西大學 文學論集』第七十六巻 第一・二合併号、令和八年九月。
本論文は、論題の示すとおり、来年前半の刊行を目標とする『哲学は対話である――15の問い』幻冬舎、の予告篇を意図して制作されたものです。

4 「木岡哲学対話の会」参加者募集
◎募集人数:若干名
「木岡哲学対話の会」は、本年7月より会場を変更して、従来どおりの活動を続けています。12名定員の旧会場から20名収容の現会場(大正区コミュニティセンター)に移ったことにより、新たに参加者を受け容れることのできる余裕が生まれました。参加を希望される方は、以下のアドレス宛に、理由を添えてお申し込みください。
→申し込み先:n.kioka@s3.dion.ne.jp(木岡伸夫)
5 木岡哲学塾の活動状況
「木岡哲学対話の会」「哲学ゼミ」「個人指導」について、10月の活動内容をお知らせします。
Ⅰ 木岡哲学対話の会
第7回「木岡哲学対話の会」
《それぞれの〈いま〉》
○日時:10月4日(日)13:00―16:00
○会場:大正区コミュニティセンター2F第7会議室
○内容;
1)哲学講話:《〈中のロゴス〉総括》
新著『〈中〉のロゴス――東アジアの目から』刊行に合わせて、〈あいだ〉と〈中〉との関係に焦点を絞った内容紹介が行われました。
2)哲学対話:《平和・健康・幸福――竹田青嗣を手がかりに》
標題に挙げられたテーマをめぐって、長年にわたる精神的遍歴が語り出されました。
3)その他:次回の哲学対話では、「狂言のすすめ」が発表テーマとなることが確認されました。
Ⅱ 哲学ゼミ
秋期第二回のプログラムは、次のとおりです。
○日時:10月18日(日)13:00―16:00
○内容:
1)ルソー『社会契約論』第三編第八章~第十八章(p.110~p.143)。
2)発表と討議
3)その他
Ⅲ 個人指導
塾生個々の要望に応えて、読書指導・論文作成・発表準備などの助言を行っています。読解の目的で最近取り上げたテクストの一部を、以下に挙げます。
○今西錦司『生物の世界』
○木岡伸夫『風景の論理――沈黙から語りへ』
○西田幾多郎「信濃哲学会のための講演」
○『荘子』
○プラトン『パイドロス』『ソクラテスの弁明』
○熊十力『新唯識論』
○H.アレント『責任と判断』