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2025年10月21日新着情報

1 川べりの自由空間

 かつて万葉集にも詠われた奈良の佐保川、そのほとりにたたずむ、その名も「Book Cafe川べり」。独力で「萌(きざす)書房」を立ち上げ、硬派の出版物を世に送り出してきた白石徳浩さんが今年開業したばかりの、木の香りが漂うお店にお邪魔しました。

 

 ブック・カフェなるものに入ったのは、はじめてのこと。本の売り場と喫茶のスペースとがつながっているので、買った本を気がねなく読む時間が持てるし、おしゃべりも楽しめる。これぞ〈自由空間〉そのもの、という感じがしました。書棚には、白石さん自身が選んだ哲学・思想書のほかに、仕事上の盟友である工藤陽子さんのお見立てで、美術・映画・宗教など多岐にわたって、入門書――マンガを含む――から専門書まで、系統だった選書が並べられています。これでもかとばかり、店内を無数の本が埋め尽くす書店の光景になじんできた自分にとって、余裕のある書棚を見るのは新鮮で、手に取ってみたいという誘惑にかられる本の配置でした。

 本屋とカフェがつながった一階のほか、二階に10人余りがゆったり座れる集会スペースが用意されています。一目見て、ああ、これは「木岡哲学対話の会」を開くのに絶好の場所だな、と実感しました。窓の下には佐保川の流れ――鹿もときどき遊びに来るとか――が見下ろされ、古都ならではの優雅な気分で、対話に興じることができそうです。少し下流にある桜並木が素晴らしいことは、花見時に通りかかった体験から承知しています。

 

 白石さんが念願のブック・カフェを開いたのは、お茶を飲みに立ち寄ってくれるお客さんの百人に一人でも、本に関心をもってくれれば……という思いからとのこと。私より十歳だけ年下の彼に、少年の心が生きているのです。二階では、有志を集めての読書会がすでに開かれ、その第一回では、キェルケゴール『死に至る病』が取り上げられました。案内役は、桝形公也先生(大阪教育大学・武庫川女子大学名誉教授)。当方にも来年早々、和辻哲郎『風土』についての仕切り役が依頼されました――もちろんOKです。

 大学院を出て最初の勤務先(大阪府立大学――当時)に落ち着いたのは、私が37歳の時。その倍を生きて今日に至りましたが、後半生のスタート当初から、白石さんとはご縁がありました。彼にとって最初の勤務先である京都の出版社が企画した『記号の劇場』(1988年)という論文集、その編集担当者が白石さんでした。大阪府立大を辞めた直後、『環境問題とは何か――12の扉から』(1999年)という編著を担当していただいたのも、別の出版社に移っていた白石さん。関西大学でのリレー講義をまとめた『〈縁〉と〈出会い〉の空間へ――都市の風土学12講』(2019年)は、萌書房を根城に企画出版されていた白石さんに、編集の労をとっていただきました。偶然ながら、二冊の編著の共著者は、いずれも12人。何でこうなったのか、と不思議な気がしました。

 このたび、「出版企画書」として春先にお見せしたのは、しかし共著ではなく、私にとってたぶん最後となりそうな著書の計画です。ただしその時点では、〈中のロゴス〉と〈かたちの論理〉とをそれぞれ主題とする二冊の書物を世に出すつもりでいました。それが、最新稿「〈中〉への問い――山内得立に倣いて」(PDF2に掲載)を書いているあいだに、出すなら二つの主題を合併した一書でなければならない、というように考えが変わりました。執筆方針の変更を説明するということも、今回、奈良に足を運んだ大きな理由です。こんなことを公言したからには、実行あるのみ。古くからのご縁が、新たな実を結ぶことを期す今日この頃です。

2 論文の新刊

 9月下旬に最新の論文「〈中〉への問い――山内得立に倣いて」を刊行しました。関係各位に宛てた「送り状」と本体(PDF)は、以下のとおりです。

 2025年9月

各位

 遅々としておぼつかない足どりながら、どうにかこのほど形になった拙稿をお届けします。本稿作成中、当初は『〈中〉のロゴス』『かたちの論理』の二書を順次手がける思惑が外れ、両著を結ぶ脈絡を一書中につける以外に道はないことを思い知らされました。いずれ日の目を見るべき拙著の「序論」として、不備極まることを自覚しながら、態度表明のしるしとさせていただく次第です。忌憚のないご批判をお願い申し上げます。

木岡伸夫

 →〈中〉への問い-山内得立に倣いて

3 木岡哲学塾の活動報告

Ⅰ 木岡哲学対話の会

 105日(日)に、本年度第7回を開催しました。

2025年度第7回木岡哲学対話の会

《対話をひらく》

日時:105日(日)13001600

会場:大阪駅前第三ビル17F7会議室

内容:

 1)哲学講話:《対話は何のために》

  関大在職中から模索してきた「哲学対話」の歴史を三期に分け、方法論についての反省を行いました。

 →対話は何のために(pdf)

 2)哲学対話:《栄養学に対する批判――『チャイナ・スタディー』を読み解く》

  中国の食を鏡として栄養学を批判する書物の内容が紹介され、「道徳を基盤とする社会の形成」に向けた提言が行われました。

 3)その他

  本会継続の条件となる会場確保の問題について、提供された情報を比較検討しました。結論は出ず、今後も検討を続けることになりました。

 哲学ゼミ

 今月は、次のとおり行われる予定です。

〇日時:1019日(日)13001600

内容:

 1)『国家』第八巻の読解

  不完全国家の国制と人間をめぐる議論を検討します。

 2)発表と討論

  拙稿「〈中〉への問い」の内容を解説し、その意義について検討します。

 3)その他

 個人指導

従来どおり、参加者各自の事情に合わせて、読書指導・論文指導・発表指導などを続けています。常時56名を相手に、24週に1回程度のレッスンを設けていますが、「木岡哲学対話の会」での発表に合わせて、発表原稿の作成などに必要な助言を行うこともあります。

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