1 「エッセイ」休載
今月の「エッセイ」(対話)最後のやりとりからお判りのように、しばらく「エッセイ」をお休みします。2019年11月のサイト開設以来、4年8か月(56回)続けてきたこのページを、しばらく――たぶん二、三か月――休ませていただきます。申し訳ありませんが、ご理解くださるようお願い申し上げます。一つのシリーズを5回続けるという方針を決め、これまで11回のシリーズを何とかこなしてきました。このあたりで一息入れて、充電させてもらおう、という勝手な言い分です。
雑誌や新聞でも、月ごとあるいは毎日、連載記事のないものはありません。当方の場合、月一回の更新ですが、一本仕上げてから間を置くことなく、次のエッセイのテーマを考えなければなりません。更新の一週前に原稿を送り、21日の更新日あたりから次のテーマに取りかかって、月内に一応仕上げるというのが、ほぼ定例ですが、ときには月をまたいでから、執筆にかかることもあります。勉強が必要なテーマであれば、本を読んで考える時間が必要です。1万字程度の字数、月に一本のペースが、特別ハードだというわけではありません。にもかかわらず、「充電したい」というのは、そういうルーティン・ワークを休ませてほしいということですから、手前勝手な話に違いないと思います。
休載が許されない連載記事の場合には、そういうわがままは通りません。それを痛感したのは、昨年12月に取材に来られた『朝日』の論説担当、山中季広さんのご苦労を知ったことからです。その折に頂戴した『よりぬき天声人語2016年~2022年』(朝日新聞出版、2023年)には、6年半にわたって「天声人語」を書き続けた氏の「打ち明け話」が載っています。担当した期間中、603字と決められた枠内にピタリと収まるよう、一つのトピックを決めて、毎日書き続けなければなりません。有田哲文記者とのコンビで、一週ごとに交代だったとのことですが、それでも「締め切り時間におびえつつ、ウンウンうなりながら原稿を書くほかなかった」(131頁)という述懐には、他人事ならぬ思いで、うなずく以外にありません。山中さんのように、毎回違うトピックを取り上げるのは、シンドイだろうなと思います。それでも、603字の枠の中で、その話題にオチをつける手腕は、さすがと感じ入らざるをえません。
いっぽう、当方の手がけるエッセイには、新聞のコラムとは違って、同じシリーズ名のもとに、各回異なるタイトルを掲げて書き続けるという制約があります。5回で完結するシリーズですから、そのテーマに関する導入から、一応の結論らしきシメまでの展開を想定して、全体の流れをつくらなければなりません。そういう文章のつくり方をあれこれ考えることは、嫌いではありませんが、最初に見通しをもたずに取りかかると、難しいことになる。これは無理かも、と思うようになったのが、今月で完結した「欲望と技術」のシリーズでした。「欲望」と「技術」について、それぞれの本質を見すえつつ、たがいのつながりを論じつくす、という本シリーズの狙いが、思惑どおりに果たせないまま終わった、というのが実感です。それが、充電のための休筆に入る理由です。
山中さんの打ち明け話の最後に、「読者ありてこそ」と題して、読者からの手紙が紹介されています。「中1でいじめに遭い、中2で不登校になった男子が、沖縄のある離島の中学校へ転校して立ち直った」という内容の天声人語が、同様の悩みをもつ女子生徒の母親の目に止まり、当人を沖縄の学校に転校させたことで、無事卒業できたことへの感謝の手紙。6年半で最も心揺り動かされた一通とのことです。
そういう出会いが、自分にも生まれるだろうかと自問しつつ、しばしのお休みに入らせていただきます。
2 木岡哲学塾の活動状況
Ⅰ 木岡哲学対話の会
◎第4回の報告
日時:6月2日(日)13:00-16:00
会場:大阪駅前第三ビル17F第7会議室
テーマ:《自律の条件》
1)哲学講話: 《自由と自律》
正義・法・人権につづいて、それらの基礎である自由に照準を合わせ、自由の本質は自律(自己立法)である、というカントの立場を説明しました。普遍的理性にもとづく人格・義務・自律・定言命法といった理念を紹介して、現代社会と自由の関係を議論しました。
2)哲学対話:《無意識の判断――考えない社会》
日常生活の中で、無意識のうちに判断し行動してしまっている事例を取り上げ、問題の所在と対処の仕方が論じられました。最新の話題である「ルッキズム」のように、自覚されにくく、社会的影響の大きい問題が注目され、さまざまな角度から意見が交換されました。
3)その他
今後の発表予定について相談しました。
〇第5回の予定
日時:7月7日(日)13:00―16:00
会場:大阪駅前第三ビル17F第7会議室
テーマ:《〈自己〉の現在》(プログラムの詳細は未定)
Ⅱ 哲学ゼミ
2024年度の第4回を、次のとおり行いました。
〇日時:6月9日(日)13:00-16:00
〇会場:木岡自宅
〇プログラム
1)「音風景」について
6.16に予定されているシンポジウムの講演「沈黙と響きの〈あいだ〉――サウンドスケープに寄せて」の概要を紹介し、風景論の意義、風景経験の構造について、突っ込んだ検討を行いました(そのため、通常のテクスト読解は休止)。
2)発表と討論:
近年注目されている「オープン・ダイアローグ」への関心、そこに至るまでの知的経歴の一部始終が語られ、今後の研究方針について検討が加えられました。
3)その他
Ⅲ 個人指導
〇会場:木岡自宅
〇日時:日・月・水・金の午前(10時―12時)または午後(13時―17時)を原則とします。事前予約制。
〇内容:学生・一般社会人を対象として、語学指導・読書指導・作文指導など、参加者ごとの希望に合わせて、個人指導を行います。2~4週間に1回、各2時間が原則。現在の指導内容(紹介は一部)を、以下に例示します。
・Aさん:プラトンの対話篇など、古典的著作の読解をつうじて、社会における自律と共生のあり方を考えています。
・Bさん:〈意味〉をテーマとする本人の希望に沿って、山内得立『意味の形而上学』の読解を進めています。
・Cさん:ベルクソンへの関心に合わせて、「意識と生命」のフランス語原典を講読するかたわら、『道徳と宗教の二源泉』を読み進めています。