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2024年8月21日新着情報

1 転居の記

先月お知らせしたとおり、715日に引っ越しを行いました。ほかに目新しい話題もない今月の冒頭記事は、転居についてのとりとめもない一文でお茶を濁すことになります。読まれる方にお付き合いを願うのも、気が引けるような雑文です。

 世紀の改まる2000年に入居と思い込んでいたUR(旧公団)の集合住宅ですが、正確には建物が新築されたその2年前から入って、25年余りを同じ住まいに居続けたことになります。20年を超えると、どんな新築の家でも古ぼけた感じが出てきます。「畳と何とかは、新しいに限る」と言われるとおり、擦り切れて変色した畳や住宅設備が気になってくるものです。ということで、これほど長く同じところに住み続けたことのない私が、引っ越しを考えついたことにも、無理からぬ事情があります。

 私は現在73歳。体力を考えると、住環境を変えるには、今回がラストチャンスと思われました。限られたカードの中で、新しい住戸に移るよりも、同じ建物のリフォームされた別室に移動する選択をしました。転居先の下見、転出転入の手続きは、まだよいとして、引っ越し前の荷造りから入居後の荷物整理まで、障害のある老体にとっては、もうコリゴリと言いたいほどハードでした。少し落ち着いた現在、どんな心境かを報告します。

 経験者にはご説明するまでもなく、転居は、自分の過去・現在・未来と正面から向き合う出来事です。過去――これまで自分が何をしてきたかは、物品の整理によって明らかになります。不用品として処分せざるをえないノートや資料類は、学生時代から教師生活をつうじて、自分が生きてきたことの証、記憶そのものです。それを処分するということは、今日まで続けてきた生活にピリオドを打つ行為。たとえて言うなら、昔撮った写真を捨てなければならない場合の、何とも言えない名残惜しさと言えば、どなたも分かっていただけることでしょう。

 そういう過去につうじる品々を捨てることをつうじて、現在の自分が何ものであるかが見えてきます。さらには、これからの将来、何をして生きていこうとするのかも、自問しないわけにはいきません。必要なものを他から区別して残す所作によって、現在から将来にかけての人生行路を敷くことになるわけです。高齢者の将来は、青壮年に比べてはるかに短い。その残り時間を設計することよりも、過去のめぼしい出来事を振り返る時間の方に、ずっと手応えが感じられるものです。メーリング・リストをつうじて折々に送られてくる、昔の同窓生諸君の消息――その大半は、思い出談義――に接するたび、そうだそうだとうなずく自分が、そこにいます。

 将来よりも過去に傾く、現在の自分の位相。それを見きわめるために、あえて環境を変えてみた――と、引っ越したことの意義を、そんなふうにとらえたいと考えます。長く重い過去の時間に、将来をどう釣り合わせるか。この問いを自分に投げかけることができた、という点で、今回の引っ越しにはそれなりの収穫があった。そう考えることにします。少し広くなった書斎で、哲学塾のレッスンを再開した自分の姿を俯瞰するようにして、いま何ができるか、これから何をすべきかを、問い続けるつもりです。塾のメンバー以外にも、当方の暮らしぶりに関心のある方がいらっしゃれば、いちどお立ち寄りください。

2 木岡哲学塾の活動状況

 8月中は、例年と同じく活動を休止します。以下、三つのジャンルについて、7月までの今年前半の活動を振り返り、9月以降の方針を説明します。

 木岡哲学対話の会

 主宰者による「哲学講話」と参加者主体の「哲学対話」を二つの柱とする方針は、変わりません。前期(3月―7月)は、正義・法・人権・自由(自律)・自己(他者)といった、社会性の強いテーマのラインナップ。参加者に関心のあるテーマを総題に立て、講話と対話の内容が結びつくようにプログラムしたことが、今年度の工夫です。各回のテーマに沿った概括的な講話を前半に置き、後半は発表者がテーマとの接点を語るという趣旨の対話を展開する、という方針で臨みました。この狙いはそれなりに的中して、参加者ごとにさまざまな気づきをもたらしたのではないか、と推測しています。

 後期(9月―1月)も、同じやり方を踏襲しますが、「哲学対話」のテーマは発表者次第。前期はそれに合わせて、「哲学講話」をプログラムしましたが、後期は私自身の学問的関心を前面に押し出す方針のもとに、《風土学のいま》とでもいうべきシリーズを構成したいと考えています。いま検討しているのは、「出会いから対話へ」「〈中〉のロゴス」「中庸とは何か」「仁義と正義」といったテーマ。東西両世界に共通する〈中〉の思想の源を究明する、という昨年来の課題について、現在までの研究成果を披露するつもりです。当方の関心については、昨年発表した論文2篇、「「中の論理」再考」「〈道のロゴス〉試論」)――いずれも「研究実績」に掲載――をご参照ください。

◎第6回の予定

 日時:9月1日(日)13001600

 会場:大阪駅前第三ビル17F8会議室

 テーマ:《出会いと対話》

  1. 哲学講話: 《出会いから対話へ》

自己〉は、〈他者〉と出会うことによって成立します。『邂逅の論理』(2017年)が追究した〈出会い〉の真実から、歩を進めて、自他の〈あいだ〉を開く〈対話〉の成立条件を考えます。

2)哲学対話

発表:《対話から生まれるもの》

 発表者の知的履歴から生じたカウンセリングとの接点、最近気づいたオープン・ダイアローグへの関心などを語ります。

 哲学ゼミ

 「対話の会」と同じく、全体(3時間)を二部に分け、前半を「テクスト読解」、後半を「発表と討論」に充てます。テクストは、拙著『瞬間と刹那――二つのミュトロギー』(春秋社、2022年)を取り上げ、各回に一章ずつ読み進める方針。つづいて、参加者それぞれの関心に沿ったテーマを取り上げ、発表と討論を行っています。

◎第6回の予定

日時:915日(日)13:001600

会場:木岡自宅

プログラム

1)『瞬間と刹那』「第六章 瞬間から歴史へ――三木清とミュトロギー」

 三木清の人間学と風土学の方法であるミュトロギーの関係を明らかにします。

2)発表と討論

 参加者各自の関心の所在、研究成果について聴き取りを行い、今後の方針を検討します。

 個人指導

 「哲学ゼミ」の個人版。学生・一般社会人を対象に、個々の要望に沿って課題を設定し、語学指導・読書指導・作文指導などを幅広く行っています。2~4週間に1回、1.52時間が原則。会場は木岡自宅、日時は日・月・水・金の午前(10時―12時)または午後(13時―17時)に設定しています。

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