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2024年12月21日新着情報

1 白鵬の孤独

 タイトルを見て驚かれたでしょう。相撲の話です。内容は、先月の本文で言及した「風土決定論」の続きです。

 大相撲にあまり関心のない方でも、少年時代にモンゴルから来日して大相撲界に入り、引退まで45回の優勝という不滅の金字塔をうちたてた、大横綱白鵬を知らない人はいないはずです。その白鵬が「孤独」であるとは?特別の相撲好きでもなく、力士白鵬のファンでもなかった私にとって、この人が置かれた状況を言い表す言葉として、「孤独」以外には思いあたらない、という事実を知っていただきたくて、パソコンに向かいました。

 なぜ、この人が孤独なのか?前人未到の域まで勝利を重ね、優勝回数を積み上げた力士としての実績に、問題がないのは分かり切ったこと。その彼が、引退後のインタヴュー(TV番組)の中で、横綱に推挙される条件として、「力量、品格において抜群」と記した一文を目にして、戸惑ったということを告白しています。「力量」は当然として、「品格」が何のことだか分からないと。周囲に訊いても、その意味を教えてくれる者は、誰もいない。困った白鵬は、要するに勝てばいいんだろ、と自己流に納得して済ませたと告白しています。可哀そうな白鵬!親方、関取衆はじめ、大相撲関係者の中に、横綱が具えるべき品格について、こういうことだと教えることのできる人物が、だれ一人おらず、そのため彼は、横綱としてひたすら勝ち続けるという役目を、自らに引き受けざるをえませんでした。

 横綱の使命は勝ち続けること。そう信じた白鵬は、勝って勝って勝ちまくる、しばしば駆け引きに訴えて――例えば、ぶつかる相手を最初から圧倒する「かち上げ」の多用などは、「横綱にふさわしくない」として、よく非難の的にされました。馬力のある正代とぶつかる前に、仕切り線の後方、土俵際まで下がって、立ち合いの衝撃を防ぐ「工夫」をこらす――解説者北の富士(故人)から、「横綱のすることじゃあない」と酷評されたことなど、ご記憶の方もおいででしょう。

私が忘れられないのは、当時贔屓にしていた大関豪栄道が、気合満々の様子で、傍目からしても、これなら白鵬に勝つだろう、と予想された立ち合いの刹那、いきなり「待った」をかけられたことです、別段の理由もなく――いや、理由ならある。それは、この状態で立ったなら、自分は負けると判断した白鵬が、相手の「気」を逸らそうとしたことです。負けることが許されない、大相撲の横綱という地位。しかし、そうしたふるまいが、横綱に要求される「品格」にもとるということを、彼は理解できませんでした。まさに悲劇そのものです。「一人横綱」として長らく孤塁を守り続け、東日本大震災の被災地慰問にも率先して赴いた、角界最大の功労者でありながら、いろんな事情も絡んで、やがて相撲界から追放同然の処遇を受けねばならないとは!

では、「品格」とは?相撲通はいざ知らず、私の理解するかぎりでは、取り組む相手に合わせること――別の言い方が許されるなら、他者との〈あいだ〉を開くこと。それは、相撲の世界において、勝つことをめざす闘い(バトル)ではなく、勝負の形式で行われる〈協働作業〉に参加するということです。農耕社会の神事に由来する相撲の本質は、そこにあります。国技である大相撲は当然として、日本の武道すべてに〈あいだ〉が関係しています――相手に呼吸を合わせることなしには成り立たない相撲の立ち合いは、その典型的な例です。父親がモンゴル相撲――立位で組み合う格闘技――の横綱であった白鵬には、草原ならぬ丸い土俵で立ち合う日本式格技の流儀に覚えがなく、相撲に要求される品格について、基本的な理解がなかったことは、無理もない話です。

本日(11.24)は、たまたま九州場所の千秋楽。琴桜と豊昇龍が、一敗の大関同士で対決します。白鵬の先輩、ライヴァルで悪役だった朝青龍の甥が、かつての横綱の鬼の形相に似てきたという批評を、師匠筋の解説者(元豊真将)が口にしました。元横綱とは違って愛嬌のある豊昇龍が、大先輩白鵬と同じ孤独の道を歩まないことを祈るばかりです。

2 木岡哲学塾の活動状況

 「木岡哲学対話の会」「哲学ゼミ」「個人指導」のいずれも、これまでどおり順調に活動を続けています。それぞれの近況をお伝えします。

 木岡哲学対話の会

◎第9回《技術は何のために》

日時:12月1日(日)13001600

会場:大阪駅前第三ビル17F第7会議室

内容:

  1. 哲学講話:《技術の目的》

技術と〈目的〉の本質的な関係を取り上げ、①〈目的-手段〉が明確な技術の原点、②〈目的〉不在のハイテクの状況、③二重の目的が内在する技術としての〈道〉、を対比させて論じました。

→技術の目的(PDF)

2)哲学対話:《家庭会計を考える――企業会計を手がかりに》

 〈欲望の論理〉を超える方向をめざして、企業会計における①情報開示、②説明責任、③継続企業、の原則を家庭会計に適用する提案が行われました。

◎その他

「総括討議」(1.5)に向けて、アンケート用紙を配布し、次回(今年度最終日、2025.1.5)の会終了後に行う「打ち上げ」について周知しました。

 哲学ゼミ

 ◎第9

日時:1215日(日)13:001600

会場:木岡自宅

プログラム

1)『瞬間と刹那』「第九章 瞬間と刹那の〈あいだ〉」

 本書が取り上げて論じた二つのミュトロギー――西洋的「瞬間」と仏教的な「刹那」思想――を比較することの意義や、結論である「非近代」の考え方について、意見を交わしました。

2)発表と討論

 土井健郎『甘えの構造』についての発表をめぐって、討議が行われました。

  1. その他

『瞬間と刹那』に続いて取り上げるテクストについて、相談しました。

 個人指導

 参加者個々の要望に沿って、テーマごとのレクチュア・読書指導・論文指導などを自宅で行っています。参加者各自のテーマについての討議や助言、論文指導、読書指導を行っています。最近取り上げている古典のテクストは、プラトン『国家』、ベルクソン「意識と生命」ホワイトヘッド『観念の冒険』など。ベルクソンについては、フランス語原典による語学指導もあわせて行っています。

 

3 講演のお知らせ

 2025年の年明け早々、東洋大学から招聘を受けて講演することになりました。

〇日時:202519日(木)13001430

〇招聘者:東洋大学文学部「国際文化コミュニケーション学科」(「サイエンス&カルチャー」の授業にゲスト出演)

演題:「風土学へのいざない」

 講演の詳細については、次回「新着情報」で報告します。

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